大きなイノベーションを生む新しい発想 – 羽村 季之 教授

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2014年5月2日

有機合成化学と呼ばれる学問分野は、炭素を骨格として組み立てられた分子をいかに合成するか、その方法を研究する学問です。これまで世の中に存在していない新しい分子をつくる方法を考えたり、すでに知られているものをより効率よくつくる方法を考えたりすることで、社会に役立つ分子を生み出していこうというのです。
環境応用羽村研

新しい分子は、社会に変革をもたらす

1985年、60個の炭素原子がサッカーボール型に結合した「フラーレン」が発見されました。約30年たつ今なお合成方法や応用についての研究が行われており、ナノサイズのスイッチなどの電子デバイスとしての利用や、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の特効薬としての研究など、多岐に渡る応用研究が進められています。

同じく炭素原子が並び、チューブ状になったカーボンナノチューブもあります。こちらも様々な応用研究が進み、その高い導電性を活かしたナノサイズの電子回路をつくる素材として注目されています。その他、燃料電池への応用や、鋼鉄の20倍の強度を持つ性質から宇宙エレベータへの利用にも期待されています。

この2つの事例からもわかるように、新しい化学物質の発見は、時にその後の研究や技術のイノベーションを生み出してきました。

想像は簡単、実現は困難

世界中の有機合成化学者がさまざまな新しい分子の合成方法を模索する中、50年以上も前から挑戦し続けているにも関わらず未だにつくれない「夢の分子」があります。それは、炭素原子でできた六角形のベンゼン環を横に長くつなげ、さらにベルトを巻くように全体をくるっと丸めてつなげた「シクラセン」と呼ばれる分子です。一見すると非常に単純なかたちでありながら、誰も合成に成功していないのです。

「他にも、紙の上で構造式を書けても実際にはつくれない分子はたくさんあります。そういうものを自在に合成するための、新しい方法を編み出したいというのが研究の目的です」。シクラセンに限らず、イノベーションの原点になりうる新しい化学物質。羽村教授はその起点になる合成方法の研究に取り組んでいるのです。

ブロックを組み合わせ、大きなかたちをつくる

狙った分子を自在につくる。そのための羽村教授のアプローチが、反応性の高い小さな分子を組み合わせて大きな分子をつくるという方法です。

例えば、大きなものをつくるときも、その途中過程では、小さなものを積み上げていきますよね。羽村教授の方法もこれに似たもので、つくりやすい小さな分子を途中で使いながら組み立てていきます。具体的に炭素原子でできた化合物を考えた場合、六角形のベンゼン環は安定ですが、三角形のシクロプロパンや四角形のシクロブタンはとても不安定で、すぐに他の分子と反応して結合しようとします。こういったものをうまく活用して、途中段階ではどういうかたちにすればいいかと考えます。それを繰り返して目的の分子に辿り着こうとしているのです。

こうして、小さなものを組み上げるアイデアを出しては、実際に実験を行って測定し、狙い通りの反応が進んだかを確認する、という研究を日々繰り返しています。

多分野に活躍する分子を生み出そう

「こういうものをつくりたい、と想像した分子を実際につくるのは、実はとても難しい挑戦です。でも、その難しさこそが研究のおもしろさなんです」。研究の中で、次世代太陽電池として期待される色素増感型太陽電池の素材として使える新しい分子を生み出したこともあります。「自分たちが合成したものが、エネルギーやエレクトロニクス、欲張りを言うと医薬品にも使えればいいですね」と研究の展開を語る羽村教授。分野にとらわれず、様々な方面に広がる応用の根本をつくることができる。それこそが、新しい分子を合成する研究の魅力なのです。