研究内容

研究テーマ

我々の研究室では, 『無機化合物の合成と物性』というタイトルで研究を行って来た. 19世紀末のS. M. JørgensenやA. Wernerらによる正八面体型コバルト錯体の研究は, 我々に金属と無機・有機配位子との複合体である『金属錯体』の領域を切り開いてくれた. 錯体として認識される以前から, 我々人類を魅了して来た紫, 青, 緑, 黄, 赤等の金属錯体の美しい色は, 金属原子と配位子との相互作用によるものであり, その原因を探って行くと結晶場(配位子場)理論へと辿り着く. 金属錯体には, この光吸収の他に金属原子の不対電子に由来する磁気的性質や様々な酸化数に応じた酸化還元挙動等, 金属原子の存在により発現される多様な性質がある.

その中で, 我々は, 新しい金属錯体の合成に重点を置き, 色々な有機配位子の設計合成を行っている. 簡単な有機合成の反応に始まり, 有機配位子の単離精製, 金属塩との錯形成反応, 金属錯体の単離そして単結晶化と言う流れで, 新しい金属錯体の合成を目指すことになるだろう. 長い時間かけてやっと合成した配位子がうまく金属を捕らえてくれずに, せっかくの苦労が水の泡に帰することも少なくない. しかし, 錯体合成の妙味は, 金属原子と配位子との反応から生成する錯体を取り出す条件を模索する所にあると言っても過言ではない. 運が良ければ, ただ混ぜるだけでバサッと錯体の結晶が出てくるだろうし, 不運な時は, 色々反応条件を変えてもどうやってもうまく反応してくれなかったり, あるいは反応していても生成しているに違いない金属錯体を単離できなかったりして, 有機合成には見られないチマチマとした, いやらしさがつきまとう. そうした困難を乗り越えて, ある日, マイヤーの底に析出した色鮮やかなキラキラとした結晶を見つけた時の感激は, 錯体をつくっている者にしか味わえない喜びである.

我々が重視しているテーマは, 錯体分子内に2個以上の金属原子を近接・集積させた少数核や多核の金属錯体の研究である. 『無機化学は, 全ての元素を対象とする学問である.』との思いからマンガン, ルテニウムを中心とした第一, 第二遷移金属から希土類元素にいたるまで幅広く焦点を当てている. 遷移金属錯体は, 例えば V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cuの錯体に見られる様に,d電子1個ずつの違いにより全く異なった分光学的性質や磁気的性質を示す. 我々は, こういった個性豊かな金属イオンの系についてX線結晶構造解析, 元素分析, 赤外吸収スペクトル, 紫外・可視・近赤外吸収スペクトル, サイクリックボルタンメトリー, 帯磁率の温度依存性, 熱重量分析等の様々な測定手段を用いて錯体の電子状態, 酸化還元挙動, 結晶構造に関する情報を集め, 金属核の集積により生じる新しい金属錯体の特性を総合的に調べている.

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