研究内容
触媒の助けを借りて,これまで簡単にはできなかった炭素-炭素結合を作る
有機化合物は日常に欠かせないものであり,例として右図のようなものが挙げられる. 有機化合物の基本骨格は炭素-炭素結合で形づくられる(下図の赤の結合).
特に,ベンゼン環同士をくっつける(下図の青の囲い)反応は,重要であるが難しかった. そこで,触媒という自らは変化せずに反応を促進するものを用いることで,新しい炭素-炭素結合形成反応が開発されてきた.例えば,アリール金属化合物とハロゲン化アリールのクロスカップリング反応は,パラジウム触媒を用いることで進行することが1970年代に初めて明らかにされた.その後,高価で希少なパラジウムなどといった触媒の代わりに,鉄などの比較的存在量の多い遷移金属を活用する反応も次々開発され,触媒を用いた炭素-炭素結合形成反応は今なお発展し続けている.また2010年に,我々の研究室を含む研究グループが1電子を触媒とする反応を報告して以降,遷移金属を用いずにこの種の炭素-炭素結合を形成する反応も飛躍的に発展した.当研究室では,遷移金属あるいは1電子を触媒とする新規触媒反応系の開発を目指している.
1電子を触媒とする反応
アレーンのC–H直接アリール化反応は,2010年当時は遷移金属なし(Transition Metal Free)では進行しないとされていた.当研究室では,1電子を触媒とすることで遷移金属触媒を用いなくてもアレーンのC–H直接アリール化反応が進行することを初めて明らかにした.下記の反応は全て遷移金属反応なしでは進行しないと考えられていた.特に緑で囲った2),4),5)の三つには,代表的な遷移金属触媒であるパラジウム触媒を効果的に利用したという点が認められて,「2010年ノーベル化学賞」が授与された.
遷移金属を触媒とする反応
研究のモットー(キーワードを青で)
環境に優しい(廃棄物が少ない),地球として持続成長が可能な形の(資源を浪費しない),新しい触媒反応の開発に取り組む.主に,有機化合物の骨格形成を担う炭素-炭素結合結合を作る反応を研究対象とする.触媒としては,上に挙げたe¯・Fe・Pdなどを,反応剤としては有機金属化合物などを,それぞれの特性を活かして使い分ける.
この有機合成化学という分野は,実験科学の中でも,特に思考と実験のバランスが良い分野と言える.共に研究に取り組む学生には,実験結果に教えられ,教員らとの議論に助けられつつ、自ら考えて研究を進め,様々な世界初の反応や手法を開発してゆくことを期待する.