研究紹介

プラズモニックチップを軸にした研究

1D2D plasmonic chip AFMII
Plasmonic chip bar

“プラズモニックチップ”とは
 波長サイズの周期構造をもっている金属薄膜で覆われた基板のことを「プラズモニックチップ」とよんでいます。その上にのせた蛍光物質がふつうのガラス基板上と比べてとても明るくなります。
プラズモニックメカニズム
 基板に光を照射したときに、ガラス基板ではほとんどの光が透過してしまいます。また平らな金属薄膜基板ではほとんどの光が反射してしまいます。しかし、我々が作製しているプラズモニックチップでは、ある特定の角度で照射した光は透過せず、反射せず、基板表面に留めることができます。そのため、基板表面に固定化された蛍光分子は、ガラス基板上と比べて非常に強い光があたっている状態となり、明るい蛍光を発します。
 
 この基板表面に光を留める現象を「表面プラズモン共鳴」といいます。表面プラズモン共鳴は、照射した光の波が金属表面にある自由電子の波と結合して強い光の波を作ります。ただし、平らな金属基板に光を照射しても結合はおきません。結合を可能にする一つの方法が波長サイズの周期構造です。結合の可否は周期構造における1周期の長さ(ピッチ)や溝の深さや形状、金属薄膜の膜厚など、プラズモニックチップの構造に大きく依存しています。  
 プラズモニックチップのメリットは、ガラス基板やプラスチック基板の上で観察していた試料、プロトコールをそのまま、プラズモニックチップに応用できることです。計測装置も試薬も同じままで、明るくしかもコントラストのよい蛍光像がとれます。デメリットは、作製プロセスでしょうか。ガラス基板やプラスチックプレートよりは基板作製に時間やお金がかかります。しかし、コストダウンは可能です。波長サイズの構造体がプラスチックに作られている例としてDVDやCDなどがありますが、大量生産すると1枚10円以下に安くなります。
   
【関連論文】
1. XQ. Cui, K. Tawa*, K. Kintaka, and J. Nishii “Enhanced Fluorescence Microscopic Imaging by Plasmonic Nanostructrues: From 1D Grating to 2D Nanohole Array” Adv. Funct. Mater. 20, 945-950 (2010).
 
2. XQ. Cui, K. Tawa*, H. Hori, and J. Nishii “Tailored Plasmonic Gratings for Enhanced Fluorescence Detection and Microscopic Imaging” Adv. Funct. Mater. 20, 546-553 (2010).
 
 プラズモニックチップの応用

 「蛍光を明るくする」という特徴を生かすことで、我々の研究室では、蛍光イムノセンサー*や細胞の蛍光イメージング**への応用を展開してきました。
 イムノセンサーは血液中などの特定のたんぱく質を抗原抗体反応を用いて検出するものです。チップ側に抗体をあらかじめ固定化します。そのあと血液などの検体を流し、さらに、検出抗体を使って、検体中の標的タンパク質の定量評価を行います。イムノセンシングで一般的なものとして、ELISA法があります。酵素反応を使って標的タンパク質の検出を行っています。しかし、かなり多段階反応で時間がかかるといった問題点があります。プラズモニックチップを用いた高感度蛍光検出ではこれらの問題を解決することができます。
 我々はこれまでに肝臓癌の指標となるタンパク質αフェトプロテイン(=AFP)の計測を50fMまで、すなわち照射スポット内に分子が数個~数百個結合しているときでも定量的に検出することができました。これは同じ試料をガラス基板上で計測するときよりも4桁以上高感度な検出です。
乳癌細胞図
 蛍光イメージングでは、暗くて見えなかったものを「見える化」します。例えば、蛍光染色した細胞や蛍光標識抗体で結合した試料は、非常に明るく見えます。神経細胞や乳癌細胞の蛍光像では、ガラス基板に比べてプラズモニックチップで10倍以上明るい蛍光像がとれました。標的タンパク質の発現率が小さくても発見を可能にする本チップは、細胞診断への応用も考えられます。

 我々は化学系の研究者ですので、バイオ分野に広げていくためには、共同研究は欠かせません。現在も東北大学や神戸大学などの大学、産業技術総合研究、企業との共同研究を行っております。実用化を目指しすために、基礎研究を積み上げながら、応用研究も進めたいと考えています。

 
*バイオセンシング
 血液1滴から腫瘍やうつ病など様々な疾病の早期診断に貢献できる臨床診断用センサーチップの創製を目指しています。ポータブルな計測装置で世界最速・最高感度のマーカー検出を狙っています。
**バイオイメージング
 SPFを利用して蛍光顕微鏡での高感度蛍光イメージングを実現し、細胞診断や創薬に応用できる汎用高感度イメージングシステムの開発を行います。
  

   

    より詳細な研究テーマは

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プラズモニックチップを用いれば、蛍光顕微鏡で細胞を高感度に観察できます。

疾病早期発見のためにプラズモニックチップを用いて疾病マーカーを低濃度まで計測することを目指します。

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